船員保険法は、昭和14年4月に制定され、昭和15年6月に全面施行された
総則
■目的
船員の職務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及び被扶養者の疾
病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行うとともに、労働者災害保障保険
による保険給付を併せて船員の職務上の事由又は通勤による疾病、負傷、障害又
は死亡に関して保険給付を行うこと等により、船員の生活の安定と福祉の向上に
寄与することを目的とする
■保険者
1.管掌(法4条)
健康保険法による全国健康保険協会が管掌する
●厚生労働大臣が行う業務
●協会が行う業務
2.協議会(法6条1項)
船舶所有者及び被保険者のの意見を聴き、円滑な運営を図るため、協会に船員
保険協議会を置く
●船員保険協議会の委員
■被保険者等
1.被保険者の定義(法2条1項、2項)
船員法第1条に規定する船員として船舶所有者に使用される者及び疾病任意継
続被保険者をいう。船員自身が、船舶所有者であるときは被保険者とならない
(船員≠被保険者)
疾病任意継続被保険者とは、被保険者資格喪失の日の前日まで継続して2月以
上被保険者であったもののうち、全国健康保険協会の申し出て、継続して被保
険者になった者をいう
●独立行政法人等職員被保険者
●共済組合に関する特例
①共済組合の組合員である被保険者に対しては、船員保険法による保険給付
は行わない
②組合員である被保険者については、保険料は徴収しない
●届出(法24条)
船舶所有者は、被保険者の資格取得および喪失並びに報酬月額及び賞与額に
関する事項を厚生労働大臣に届けなければならない
2.資格の取得
(1)疾病任意継続被保険者以外の被保険者
船員として船舶所有者に使用されるに至った日から、資格を取得する
(2)疾病任意継続被保険者
被保険者の資格を喪失した日から20日以内に申し出なければならない
ただし、正当な理由があるときはこの限りではない
3.資格の喪失
(1)疾病任意継続被保険者以外の被保険者
死亡した日又は船員として使用されなくなるに至った日の翌日(その日に更
に被保険者の資格を取得するに至ったときは、その日)から、喪失する
(2)疾病任意継続被保険者
①2年を経過したとき
②死亡したとき
③納付期日までの保険料お納付しなかったとき
④被保険者となったとき
⑤健康保険の被保険者となったとき
⑥後期高齢者医療の被保険者等になったとき
4.被扶養者
次に掲げるものを「被扶養者」という
ただし、後期高齢者医療の被保険者である者はこの限りではない
(1)被保険者の直系尊属、配偶者、子、孫及び弟妹であって、生計維持関係に
ある者
(2)3親等内の親族で(1)に掲げる者以外の者であって同一世帯に属し、生計
維持関係にある者
(3)事実上婚姻関係と同様の事情にある者の父母及び子であって、同一世帯に
属し、生計維持関係にある者
(4)(3)の配偶者の死亡後における父母及び子であって、引き続き同一世帯に
属し、生計維持関係にある者
保険給付
■給付の種類
1.職務外(通勤を除く)の疾病・負傷・死亡・出産に関する保険給付(法29条1項)
保険事故 | 保険給付の種類 |
疾病・負傷 | 療養の給付 |
入院時食事療養費 | |
入院時生活療養費 | |
保険外併用療養費 | |
療養費 | |
訪問看護療養費 | |
移送費 | |
傷病手当金 | |
高額療養費 | |
高額介護合算療養費 | |
家族療養費 | |
家族訪問看護療養費 | |
家族移送費 | |
出産 | 出産育児一時金 |
出産手当金 | |
家族出産育児一時金 | |
死亡 | 葬祭料 |
家族葬祭料 |
2.職務(通勤)上の疾病・負傷・死亡(上乗せ給付)及び職務上の行方不明に関する
保険給付(法29条2項)
保険事故 | 労災保険 |
保険給付の種類
(労災保険の上乗せ給付) |
職務(通勤)上の 疾病・負傷 |
休業(補償)給付 | 休業手当金* |
傷病(補償)給付 | 障害年金 | |
職務(通勤)上 の障害 |
障害(補償)一時金 | 障害手当金 |
障害(補償)年金 | 障害年金 | |
職務上の行方不明 | 給付なし | 行方不明手当金 |
職務(通勤)上 の死亡 |
遺族(補償)一時金 | 遺族一時金 |
遺族(補償)年金 | 遺族年金 |
*休業(補償)給付の待機期間中についても支給される
・上記以外に「障害差額一時金」、「障害年金差額一時金」及び「遺族年
金差額一時金」がある
■職務外の疾病・負傷に関する給付
1.療養の給付
(1)次に掲げる療養の給付を行う
①診察
②薬剤又は治療材料の支給
③処置、手術その他の治療
④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
⑥自宅以外の場所における療養に必要な宿泊費及び食事の支給(被扶養者に
ついては行われない)
2.傷病手当金
(1)職務外に事由による疾病等で職務に服することができない期間、傷病手当
として、1日につき、標準報酬日額の3分の2に相当する金額を支給する
(2)支給期間は、支給を始めた日から起算して3年を超えないものとする
*健康保険法の傷病手当の場合と異なり、継続した3日間の待機はない
*支給期間は、健康保険法の「1年6月」ではなく「3年」を限度とする
●疾病任意継続被保険者の場合
資格取得後1年以上経過したときに発した疾病等につては、行わない
●高齢者医療確保法の傷病手当金との調整
高齢者医療確保法の規定により傷病手当の支給があったときは、その限度
において行わない
3.資格喪失後の傷病手当金
資格喪失前に発した職務外の事由による疾病等に関し、その資格を喪失した後
の期間に係る傷病手当金を受けるには、被保険者の資格を喪失した日(疾病任
意継続被保険者の資格を喪失した者にあっては、その資格を取得した日)前に
おける被保険者(疾病任意継続被保険者を除く)であった期間が、その日前1年
間において3月以上又はその日前3年間において1年以上であることを要す
る
4.その他の傷病に関する給付
健康保険法とほぼ同様である
■出産に関する給付
1.出産育児一時金
健康保険法の出産育児一時金と同様である
2.出産手当金
出産日以前において船員法の規定により職務に服さなかった期間及び出産の日
後56日以内において職務に服さなかった期間、出産手当金として1日につ
き、標準報酬日額の3分の2に相当する金額を支給する
*船員の場合は、「出産日以前42(98)日」からではなく、「妊娠が判明した日」
から出産手当金が支給される
*疾病任意継続被保険者には支給されない
*健康保険法の出産手当金と同様に、報酬との調整や傷病手当金との調整(傷
病手当金の不支給、内払処理)が行われる
3.家族出産育児一時金
健康保険法の家族出産育児一時金と同様である
4.資格喪失後の出産に関する給付
(1)出産育児一時金
資格を喪失した日後に出産した場合に、出産育児一時金の支給を受けるため
には、次の要件を満たすことが必要である
①資格を喪失した日より6月以内に出産したこと
②次のいずれかの要件を満たすこと
・資格喪失日前1年間に3月以上の疾病任意継続被保険者以外の被保険者
であった期間を有すること
・資格喪失日前3年間に1年以上疾病任意眷属被保険者以外の被保険者期
間であった期間を有すること
(2)出産手当金
資格を喪失した日後の期間について出産手当金の支給を受けるためには、次
の要件を満たすことが必要である
①資格喪失日前に出産したこと又は資格喪失日より6月以内に出産したこと
②次のいずれかの要件を満たすこと必要である
・資格喪失日前1年間に3月以上の疾病任意継続被保険者以外の被保険者
であった期間を有すること
・資格喪失日前3年間に1年以上疾病任意眷属被保険者以外の被保険者期
間であった期間を有すること
■職務外の死亡に関する給付
1.葬祭料
(1)支給要件
①次のいずれかに該当する場合においては、生計を維持していた者であっ
て、葬祭を行う者に対し、葬祭料として、政令で定める金額(5万円)を
支給する
・被保険者が職務外の事由により死亡したとき
・被保険者であった者が、その資格を喪失した後3月以内に職務外の事由
により死亡したとき
②前項の規定により葬祭料の支給を受けるべき者がいない場合においては、
葬祭を行った者に対し、同項の金額の範囲内においてその葬祭に要した費
用に相当する金額の葬祭料を支給する
(2)支給額
葬祭料の金額は、5万円とする
■葬祭料の金額
支給対象者 | 葬祭料 | 葬祭料付加金* |
葬祭を行う者 | 5万円 | 資格喪失時標準報酬月額2月分-5万円 |
葬祭を行った者 |
5万円の範囲内で葬祭 に要した費用相当額 |
資格喪失時標準報酬月額2月分の範囲内 で葬祭に要した費用相当額-5万円 |
*被保険者又は被保険者であったものが死亡したときは、葬祭料の支給に併せて葬
祭料付加金が支給される
2.家族葬祭料
被扶養者が死亡したときは、被保険者に対し、家族葬祭料として5万円が支給
される
■家族葬祭料の金額
家族葬祭料 | 家族葬祭料付加機* |
5万円 |
(被扶養者の死亡当時の被保険者の標準報酬月額の2月分相当額 ×100分の70)-5万円 |
*被扶養者が死亡したときは、家族葬祭料の支給に併せて家族葬祭料付加金が支
給される
■職務(通勤)上の疾病・負傷に関する給付
1.休業手当金
(1)支給要件
職務上の事由又は通勤による疾病等につき療養のため労働することができな
いために報酬を受けない日について支給する
(2)休業手当金の支給額
①1日目~3日目
休業手当金 |
↓
標準報酬月額の全額
②4月以内の期間(①及び④の期間を除く)
休業(補償)給付(労災) | 休業手当金 |
↓ ↓
給付基礎日額の6割 標準報酬日額×40%*
*労災から休業(補償)給付と併せて特別支給金の支給を受けることがで
きるときは、特別支給金の支給額を控除した額
③療養開始日から起算して1年6月を経過した日以後の期間(①及び④の期間
を除く)
労災保険の給付基礎日額の年齢階層別最高限度額が、標準報酬日額の
60%相当額より少ない場合に限る
休業(補償)給付(労災) | 休業手当金 |
↓ ↓
年齢階層別最高限度額を適用した (標準報酬日額-年齢階層
給付基礎日額の6割 別最高限度額)×60%
④4月以内の期間で、療養開始日から起算して1年6月を経過した日以後の期
間(①の期間を除く)
標準報酬日額が労災の給付基礎日額の年齢階層別最高限度額より多い場合
に限る
休業(補償)給付(労災) | 休業手当金 |
↓ ↓
年齢階層別最高限度額を適用した ②+③の額
給付基礎日額の6割
■職務(通勤)上の障害に関する給付
1.障害年金(労災保険の上乗せ給付)
労災法の規定による障害(補償)年金または傷病(補償)年金を受ける場合におい
て、労災法の給付基礎日額の最高限度額が船員保険法の最終標準報酬日額より
少ないときは、障害等級に応じて、障害年金を支給する
2.障害前払一時金
障害年金を受けることができる者が、障害(補償)年金前払い一時金と同様の期
限内に請求したときは、障害前払一時金を支給する
3.障害手当金
傷病が治癒した場合において、労災法の障害(補償)一時金を受けるときは、障
害等級に応じて、障害手当金を支給する
4.障害差額一時金
労災法の障害(補償)年金を受ける者の障害の程度の変更があり、新たに他の障
害等級に該当し、障害(補償)一時金を受けることとなった場合において、船員
保険法の定める金額に満たないときは、その差額を障害差額一時金として支給
する
5.障害年金差額一時金
労災法の障害(補償)年金の支給を受ける者が死亡した場合おいて、船員法と労
災法に基づいてすでに支給した合算額が、最終標準報酬月額を基に得た金額に
満たないときは、その差額を障害年金差額一時金として支給する
■行方不明手当金
1.職務上の事由により行方不明となったときは、その期間、被扶養者に対し、
行方不明手当金を支給する(1月未満のときはこの限りではない)
2.1日につき、行方不明となった当時の標準報酬日額に相当する金額とする
3.支給期間は、行方不明となった日の翌日から起算して3月を限度とする
■職務(通勤)条の死亡に関する給付
1.遺族年金(労災保険の上乗せ給付)
労災法の遺族(補償)年金が支給され、かつ、同法の給付基礎日額の最高限度額
が船員法の最終標準報酬日額より少ないときは、遺族年金が支給される
2.遺族前払一時金
遺族年金を受けることができる者が、遺族(補償)年金前払一時金と同様の期限
内に請求したときは、遺族前払一時金を支給する
3.遺族一時金
死亡した際、遺族年金の支給を受けることができる者がない場合にあって、労
災法の遺族(補償)一時金が支給されるときは、船員法の最終標準報酬月額の
2.7月分に相当する金額の遺族一時金を遺族に支給する
4.遺族年金差額一時金
労災法の遺族(補償)年金を受ける者がその権利を失った際、遺族(補償)年金の
支給を受けることができる者がいない場合において、労災法及び船員法に基づ
いてすでに支給された合算額が、船員法の最終標準報酬月額の36月分に相当
する額に満たないときは、その差額を遺族年金差額一時金として、被保険者で
あった者の遺族に支給する
その他
■国庫負担
1.給付費の負担
国庫は政令で定めるところにより一部負担する
*現在のところせ令は定められておらず、国庫負担は行われていない
2.事務費の負担
国庫は、毎年度、予算の範囲内において事務に要する費用を負担する
3.国庫補助
国庫は、予算の範囲内において、事業の執行に要する費用の一部を補助する
■保険料
1.保険料の徴収
(1)厚生労働大臣は、船員保険事業に要する費用(前期高齢者納付金等、後期高
齢者支援金等及び退職者給付拠出金並びに介護納付金の納付に要する費用
を含む)に充てるため、保険料を徴収する
(2)疾病任意継続被保険者に関する保険料は、協会が徴収する
2.保険料の額
被保険者の区分 | 保険料額 | |
下記以外の 被保険者 |
介護保険第2号被保険者 である被保険者 |
一般保険料額+介護保険料額 |
介護保険第2号被保険者 である被保険者以外の被保険者 |
一般保険料額 | |
独立行政法人等職員被保険者 |
3.保険料率
(1)一般保険料率
被保険者の区分 | 一般保険料率 | |
下記以外の被保険者 |
疾病保険料率+災害保健福祉保険料率 | |
・後期高齢者医療の被保険者等である 被保険者 ・独立行政法人等職員被保険者 |
災害保健福祉保険料率 |
①疾病保険料率
職務外疾病給付等に充てる保険料
1000分の40から1000分の110までの範囲で協会が決定する
②災害保健福祉保険料率
職務上疾病、年金給付、保健福祉事業等に充てる保険料
1000分の10から1000分の35までの範囲で協会が決定する
(2)介護保険料率
協会が決定する
4.保険料の負担
①保険料の負担額
負担額 | ||
被保険者 |
次の①②の合算額 ①(標準報酬月額+標準賞与額)×疾病保険料額×1/2 ②(標準報酬月額+標準賞与額)×介護保険料率×1/2 |
|
船舶所有者 |
次の①②の合算額 ①(標準報酬月額+標準賞与額)×疾病保険料率×1/2+(標準報酬月額+ 標準賞与額)×災害保健福祉保険料率* ②(標準報酬月額+標準賞与額)×介護保険料率×1/2 |
*災害保健福祉保険料については船舶所有者が全額負担する
負担額 | ||
被保険者 |
(標準報酬月額+標準賞与額)×疾病保険料額×1/2
|
|
船舶所有者 |
(標準報酬月額+標準賞与額)×疾病保険料率×1/2+(標準報酬月額 +標準賞与額)×災害保健福祉保険料率* |
*災害保健福祉保険料については船舶所有者が全額負担する
②疾病任意継続被保険者の保険料負担
被保険者自身が保険料額の全額を負担する
③独立行政法人等職員被保険者の保険料負担
船舶所有者が保険料額の全額負担する
④後期高齢者医療の被保険者等である被保険者の保険料の負担
船舶所有者が保険料額の全額負担する
5.保険料の納付
(1)船舶所有者は、翌月末までに納付しなければならない
(2)疾病任意継続被保険者は、その月の10日(初回分は協会が指定する日)まで
に納付しなければならない
■不服申立て
1.審査請求及び再審査請求
(1)被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者は、
社会保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服がある者は、社会
保険審査会に対して再審査請求をすることができる
(2)審査請求をした日から60日以内に決定がないときは、審査請求人は社会保
険審査官が審査請求を棄却したものとみなして、社会保険審査会に対して
再審査請求をすることができる
(3)審査請求及び再審査請求は、時効の中断に関しては、裁判上の請求とみな
す
(4)被保険者の資格又は標準報酬に関する処分が確定したときは、当該処分に
基づく保険給付に関する処分についての不服の理由とすることができない
(5)保険料等の賦課若しくは徴収の処分又は滞納処分に不服がある者は、社会
保険審査会に対して審査請求をすることができる
●行政不服審査法との関係
●不服申立てと訴訟との関係
2.労災保険法に基づく不服申し立てに関する特例
■時効
保険料その他船員法の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利
は、2年を経過したとき、時効によって消滅する
職務外の事由(通勤を除く)による疾病等に関する保険給付及び付加給付を受ける
権利は、2年を経過したとき時効によって消滅する
職務上の事由若しくは通勤による疾病等若しくは死亡又は職務上の事由による行
方不明に関する保険給付のうち、休業手当金、行方不明手当金、障害前払一時金
及び遺族前払一時金を受ける権利は2年を経過したときに、その他の保険給付を
受ける権利は5年を経過したときに時効によって消滅する
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