■労働条件の原則、労働基準法の適用
1.労働条件の原則(法1条)-罰則はなし
Ⅰ 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきも のでなければならない
Ⅱ 労働基準法で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当 事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもと より、その向上を図るように努めなければならない
1)労働基準法の沿革・趣旨 昭和22年4月公布、同年9月から施行 同法の労働条件の最低基準が標準とならないよう、引き下げの禁止と向上を 強調した規定
2)”労働条件”とは 賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等 に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切の待遇
3)“人たるに値する生活”とは 日本国憲法第25条第1項の国民の生存権、つまり「すべての国民は、健康で 文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」という規定の精神に沿うも のでなければならない
4)“労働関係の当事者”とは 労働関係とは、使用者・労働者間の労務提供と賃金支払の関係を言い、そ の当事者とは、使用者及び労働者の他に、それぞれの団体、すなわち、使用 者団体と労働組合を含む
5)“この基準を理由として労働条件を低下させてはならない”とは 労働基準法にある規定をもとに、労働条件の低下を決定すること
例えば、労働基準法で1日の労働時間の上限(最低基準)を、原則として、8時 間としているが、これを決定理由として、もともと7時間とされていた所定 労働時間を8時間にすることなどがあげられる
しかし、上記第第1条2項については、社会経済情勢の変動等他に決定的な 理由がある場合には本条に抵触するものではない
参考①女性保護基準の改正と労働条件の改定 改定については、労使の自主的な話合いにゆだねられ、また、労使が 法改正の趣旨に沿って行うことは第1条第2項との関係では特に問題な いものである
参考②法定割増賃金率の引き上げ関係 法定割増賃金率の引き上げを理由として基本給等を引き下げることは、 第1条第2項の趣旨に抵触し認められない
この場合、使用者が一方的に、労働者の不利益になるような就業規則に 変更し、労働条件を低下させることできない
2.適用事業(法8条)
労働基準法は、原則として、労働者を使用するすべての事業に適用
1)法別表第1について 以前は適用を受ける事業の範囲が規定されていたが、社会経済の変化に伴 い平成10年改正において適用事業の範囲を号別に列記する方式が廃止され た しかし、改正後においても、法第33条「非常災害の場合の時間外労働等」、 第40条「労働時間及び休憩の特例」、第41条「労働時間等に関する規定の適用 除外」、第56条「最低年齢」及び第61条「年少者の深夜業」については、一定の 業種について、一般の適用とは異なった取扱いがなされているため、改正前 の業種の区分の一部を、法別表第1として規定し直した
注意:労働基準法の適用は、上記別表の事業に限られるものではない 参考:列車食堂は、接客娯楽業として取り扱う
2)運用の基本方針
①相関連して一体をなす労働の態様によって事業としての適用を定めること ②一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作 業の一体をいう ③適用単位 ・原則:場所的概念によって決定すべきもので、同一の場所にあるもの は、一個の事業とし、場所的に分散しているものは、別個の事業とする ・同一の場所にあっても別個の事業とする場合:同一の場所にあっても、 著しく労働の態様を異にする部門が存する場合 ・場所的に分散していても一個の事業とする場合:場所的に分散している ものであっても、規模が著しく小さく、独立性がないものについては、 直近上位の機構と一括して一つの事業として取り扱う
3)属地主義 事業主又は労働者が外国人であると否とを問わず、特別の定めがある場合を 除き、労働基準法を適用
参考:報告等の手続 同一の労働基準監督署管内に二以上の事業場があるときは、上位の使 用者が、取りまとめて当該監督署に報告又は届出をして差し支えない
3.国及び公共団体についての適用(法112条)
労働基準法及び同法に基づいて発する命令は、国、都道府県、市町村その他こ れに準ずべきものについても適用
■適用について
4.適用除外(法116条)
Ⅰ 第1条から第11条まで、下記Ⅱ、第117条から第119条まで及び第121条の 規定を除き、労働基準法は、船員法第1条第1項に規定する船員については、 適用しない
Ⅱ 労働基準法は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については適 用しない
1)船員法の適用を受ける船員
その労働の特殊性を考慮し、労働者全般に通ずる基本原則を規定した第1章 の第1条から第11条まで及びこれに関する罰則規定を除いて適用しない
参考:船員法第1条第1項に規定する船員 総トン数5トン未満の船舶、湖、川又は港のみを航行する船舶及び政 令で定める総トン数30トン未満の漁船等に乗り組み船員は含まれな い
2)同居の親族のみを使用する事業
同居の親族は、事業主と居住及び生計を同一にするものであり、原則として 労働基準法の労働者には該当しない ただし、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において次の条件を満 たす者については、独立した労働関係が成立しているものと見られるので、 労働者として取り扱うものとする
①一般事務又は現場作業等に従事していること ②事業主の指揮命令に従っていることが明確であること ③就労の実態が他の労働者と同様であり、賃金もそれに応じて支払われてい ること(特に、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び賃金の 決定、計算及び支払方法、賃金の締め切り日及び支払時期等について、就 業規則その他これに準ずるものでその管理型の労働者と同様になされてい ること)
参考:親族 六親等内の血族、配偶者及び三親等内の姻族のこと 他人を一人でも使用していれば当然に本法の適用を受けるが、その同 居の親族が形式上労働者として働いている体裁をとっていたとして も、一般には、実質上事業主と利益を一にしていて、事業主と同一の 地位にあると認められ、原則として本法の労働者ではない
3)家事使用人
従事する作業の種類、性質の如何等を勘案して具体的に労働者の実態により 決定すべきものであり、家事一般に従事している者がこれに該当する 法人に雇われ、その役職員の家庭において、その家族の命令のもとで家事一 般に従事しているものも家事使用人である 個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の 下に家事を行うものは家事使用人に該当しない
5.労働者の定義(法9条)
労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事業所に使用される者で、賃金を 支払われる者
1)労働組合法の「労働者」との相違点 労働組合法の「労働者」の場合、現に就業しているか否かを問わないので失業 者も含む
2)法人、団体又は組合の執行機関 法人、団体、組合等の代表者又は執行機関たる者は、事業主体との使用従属 関係にないので労働者ではない
3)職員を兼ねる重役 業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあって賃金を受 ける場合は、その限りにおいて労働者である
4)組合専従職員の労働関係 在籍のまま労働提供の義務を免除し、組合事務に専従することを認める場 合、労働関係は存続すると理解される
6.使用者の定義(法10条)
使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事 項について、事業主のために行為をするすべての者をいう
●出向の場合 ①在籍型出向 権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が使用者としての 責任を負う ②移籍型出向 出向先の使用者のみ責任を負う
●労働者派遣の場合
派遣労働者と労働契約関係にある派遣元事業主が責任を負い、労働契約関係 にない派遣先事業主は責任を負わない
しかし、派遣先事業主が業務遂行上の指揮命令を行う特殊な労働関係にある ので、必要な特例措置が下記の表通り設けられている
これは、派遣先が国又は地方公共団体である場合にも適用がある
また、この特例は労働者派遣という就業形態に着目して適用される
■派遣労働者に係る労働基準法の適用区分
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