労働基準法 - 総則・労働条件の原則

 

前近代的な労働関係の排除

 

 1.強制労働の禁止(法5条)

 

  使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段に

  よって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない

 

  ●法第5条違反は、労働基準法上最も重い罰則である、1年以上10年以下の懲役   

   又20万円以上300万円以下の罰金に処せられる(法117条)

 

   1)使用者

    必ずしも形式的な労働契約により成立していることを要求するものではな

    く、事実上労働関係が存在すると認められる場合であれば足りる

 

   2)精神又は身体の自由を不当に拘束する手段

    「暴行」、「脅迫」、「監禁」以外の手段では、長期労働契約、労働契約不履行賠

    償額予定契約、前借金契約、強制貯金等があり、労働契約に基づく場合で

    も、「精神又は身体を不当に拘束する手段」を用いて労働を強制した場合に

    は、違反となる

 

   3)意思に反する労働の強制

    必ずしも労働者が現実に労働することを必要としない。つまり、労働を強制

    したものであれば本条に該当する

  

 2.中間搾取の禁止(法6条)

 

  何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益

  を得てはならない

 

   1)「何人も」の範囲

    個人、団体又は公人たると私人たるとを問わない

 

   2)「業として利益を得る」とは

    1回の行為であっても、反復継続して利益を得る意思があれば違反となる

 

   3)法律に基づいて許されている場合とは

    職業安定法及び船員職業安定法に基づく場合(有料職業紹介事業、委託募集

    等)

 

   4)労働者派遣

   労働者派遣は、労働関係の外にある第3者が他人の労働関係に介入するもので

   はなく、法6条の中間搾取に該当しない

  

 3.賠償額予定の禁止(法16条)

 

  使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する

  契約をしてはならない

 

   1)趣旨

    違約金又は損害賠償金を支払わされることを恐れて、心ならずも労働関係の

    継続を強いられること等を防止すること

 

   2)違約金

    労働者本人もしくは親権者又は身元保証人に、労働義務の不履行があれば、

    損害発生の有無にかかわらず、違約金を定めたもの

 

   3)損害賠償額を予定する契約

    実害のいかんにかかわらず一定の損害賠償額を定めておくこと

 

 4.前借金相殺の禁止(法17条)

 

  使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺して

  はならない

 

   1)趣旨

    金銭的貸借関係に基づく身分的拘束関係の発生を防止すること

    身分的拘束を伴わないものは、労働をすることを条件とする債権に含まれな

    い

 

   2)前借金

    労働することを条件として借り入れ、将来の賃金により弁済することを約す

    る金銭

 

   3)生活資金の貸付けに対する返済金

    貸付の原因、期間、金額、金利の有無などを総合的に判断して労働すること

    が条件となっていないことが極めて明確な生活資金の貸付の場合は適用外

  

 5.強制貯金(法18条、則6条、則6条の3、預金利率省令4条)

 

  (1)使用者は、労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契

   約をしてはならない

 

  (2)使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合におい

   ては、当該事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労

   働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代

   表するものとの書面による協定(貯蓄金管理に関する労使協定)をし、これを行

   政官庁(所轄労働基準監督署)に届け出なければならない

 

  (3)使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合においては、貯

   蓄金に関する規定(貯蓄金管理規定)を定め、これを労働者に周知させるため作

   業場に備え付ける等の措置を取らなければならない

 

  (4)使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄

   金の管理が労働者の預金の受け入れであるときは、利子を付けなければならな

   い

   この場合において、その利子が、金融機関の受け入れる預金の利率を考慮して

   厚生労働省令で定める利率(年5厘)による利子を下るときは、その厚生労働省

   令で定める利率による利子を付けたものとみなす

 

  (5)使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、労働

   者がその返還を請求したときは、遅滞なく、これを返還しなければならない

 

  (6)使用者が(5)の規定に違反した場合において、当該貯蓄金の管理を継続するこ

   とが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、行政官庁(所轄労働基

   準監督署長)は、使用者に対して、その必要限度の範囲内で、当該貯蓄金の管

   理を中止すべきことを命ずることができる

 

  (7)(6)の規定により貯蓄金の管理を中止すべきことを命ぜられた使用者は、遅滞

   なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない

 

   1)趣旨

 

強制貯蓄

(労働契約に付随して貯蓄の契約

をさせること)

禁止

任意貯蓄

(労働契約には付随しておらず

労働者の委託を受けて貯蓄金を

管理する社内預金・通帳保管の

こと)

一定の要件の満たすこと

により認められる

 

   2)労働契約に付随して貯蓄の契約をさせる

 

    労働契約の締結又は存続の条件とすること

 

   3)貯蓄金を管理する契約

 

    社内預金と通帳保管の場合のこと

 

社内預金 通帳保管

(1)貯蓄金管理協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届出

(2)貯蓄金管理規定を定め、作業場に備え付けるなどして労働者に周知させる

(3)労働者からの返還の請求があったときは、遅滞なく返還

(4)貯蓄金管理協定の締結事項

 ①預金者の範囲

 ②預金者一人当たりの預金額の限度

 ③預金の利率及び利子の計算方法

 ④預金の受入れ及び払戻の手続

 ⑤預金の保全の方法

(5)貯蓄金管理規定に、上記(4)及び

 それらの具体的取扱いについて規定

(6)毎年3月31日以前1年間における

 預金の管理状況を4月30日までに

 所轄労働基準監督署長に報告

(7)年5厘以上の利子

(4)貯蓄金管理規定に以下の事項

 について規定すること

 ①預金先の金融機関名及び預金

  の種類

 ②通帳の保管方法

 ③預金の出入れの取り次ぎ方法等

 

 

 

 

 

 

 

 

  参考

   ●日歩による利子

    労使の自由であるが、年利率の最低限度を下回ってはいけない

 

   ●賃金の一定率の貯蓄金管理

    貯蓄の自由及び返還請求の自由が保障されている限り、賃金の10%、5%等

    の一定率を定めることは違法ではない

 

   ●その必要限度の範囲内での中止

    管理を委託している労働者の全部又は一部について中止させるという意味

 

   ●届出なき貯蓄金管理

    単に労使協定の締結又は届出を怠っただけでは罰則の問題は生じない

 

   ●派遣労働者の社内預金

    派遣元の使用者は可能だが、派遣先の使用者は不可

 

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