■労働時間等に関する規定の適用除外及び労使協定
労働基準法第4章[労働時間、休憩及び休日]、第6章[年少者]及び第6章の2[妊産婦 等]で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次のいずれかに該当する労 働者については適用しない
ⅰ 別表第1号6号(林業を除く)[農業]又は第7号[水産・畜産業]に掲げる事業に従 事する者 ⅱ 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は秘密の事務を 取り扱う者 ⅲ 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が所轄労働基準監督署長の許可 を受けたもの
1.労働時間等に関する規定の適用除外(法41条、則34条)
1)適用除外者-所轄労働基準監督署長の許可が不要な者
①農業又は水産・畜産業の事業に従事する者(林業を除く) ②監督又は管理の地位にある者(労務管理等について経営者と一体的な立場に ある者で、その地位の名称にとらわれず、実態に即して判断するべきもの とされている) ③機密の事務を取り扱う者
2)適用除外者ー 所轄労働基準監督署長の許可が必要な者
①監視に従事する者(状態として身体的又は精神的緊張の少ない業務)
次の業務は許可されない ・交通関係監視、車両誘導を行う駐車場の監視等で精神的緊張の高い業務 ・プラント等の計器類を状態として監視する業務 ・危険又は有害な場所における業務
②断続的労働に従事する者(休憩時間は少ないが手待ち時間が多い者)
・寄宿舎の管理人や賄人、鉄道踏切係、役員専属自動車運転手等 ・宿直又は日直の勤務で断続的な業務を行う者
タクシー運転手や常備消防職員など相当の精神的緊張や危険を伴う業務は 該当しない
新聞配達従業員も断続的労働とは認められない
判例:法41条該当者の深夜業に対する割増賃金
法41条2号の規定によって、法37条4項(深夜業の規制)の適用が除外さ れることはなく、使用者は、同項に基づいて深夜業の割増賃金を管理 監督者に該当する労働者に支払わなければならない
重要点のまとめ
法第41条は、労働時間、休憩及び休日の規定を適用除外としているものであ り、深夜業や年次有給休暇の関係規定の適用を排除しているものではない
法41条により労働時間等の適用除外を受ける者に対しても、使用者は、深夜 業に対する割増賃金の支払い、又、年次有給休暇を付与する義務を負う
ただし、労働協約、就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定 賃金が定められている場合には深夜業の割増賃金を支払う必要はない
参考①ー宿直又は日直勤務の許可基準
法第37条の割増賃金の基礎となる賃金の平均額の3分の1を下らないこと 原則として、宿直勤務は週1回、日直勤務は月1回を限度とする
参考②-管理監督者性の判断基準
・職務内容(責任と権限の程度) ・勤務態様(勤務時間の自由度) ・待遇(賃金等の待遇面での優遇度)
参考③-管理監督者
その範囲については、資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務 内容、責任と権限、勤務態様に着目し、賃金等の待遇面も考慮しつつ、 総合的に判断する
2.労使協定(法18条、法36条、則6条の2他)
Ⅰ 労使協定とは、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があ る場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がな い場合においては労働者の過半な数を代表するものとの書面による協定」を いう
Ⅱ 労働基準法に規定する労働者の過半数を代表するものは、次のⅰ、ⅱのい ずれにも該当するものとする
ⅰ法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にあるものでないこと
ⅱ法に規定する協定等をするものを選出することを明らかにして実施され る投票、挙手等の方法による手続きにより選出される者であること
Ⅲ Ⅱのⅰに該当する者がいない事業場にあっては、次のⅰからⅳの事項につ いての過半数代表者は、Ⅱのⅱに該当する者とされる *監督又は管理の地位にある者のみの事業場を指す
ⅰ 法第18条第2項[任意貯蓄] ⅱ 法第24条第1項ただし書[賃金の一部控除] ⅲ 法第39条第4項、第6項及び第7項ただし書[時間単位年休、年次有給休暇 の計画的付与及び年次有給休暇中の賃金] ⅳ 法第90条第1項[就業規則の意見聴取]
Ⅳ 使用者は、労働者が過半数を代表者であること若しくは過半数代表者にな ろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由とし て不利益な取り扱いをしないようにしなければならない
1)事業場
2)労働者の過半数で組織する労働組合
①労働者の範囲
労働組合との間に有効な労使協定を結ぶためには、その労働組合が事業場 の労働者の過半数で組織されている必要がある なお、労使協定にいう労働者とは、事業場に使用されているすべての労働 者をいうので、パート社員等はもちろん管理職職員や病欠、出張、派遣、 休職期間中の者も含めなければならない
参考ー派遣労働者の場合
この場合の労働者とは、派遣元の事業場のすべての労働者を意味し、派遣 中の労働者も含めて計算する
②労働組合
労働組合法第2条に規定する要件を満たすもの
参考①-過半数で組織する労働組合がある場合
労働者の過半数で組織している労働組合と労使協定を締結すれば、その 効力はその他の労働組合にも当然に及ぶ
参考②-36協定の三者連名
2つの労働組合を併せて過半数で組織していれば、使用者側は三者連名の 協定を締結しても違法ではない
3)過半数代表者の要件
労働者の過半数が代表者の選任を指示している明確な民主的手続
判例ー過半数代表者
「友の会」等の、管理監督者を含めたでほとんどすべての労働者が出席してい る総会で挙手等により選出された場合には、その者は、「過半数を代表する 者」と見ることができる
36協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が 就業規則に右36協定の範囲内で労働契約に定める労働時間を延長して労働さ せることができることを定めているときは、それが具体的な労働契約の内容 をなすので、右就業規則の適用を受ける労働者は、その義務を負うと解され る
4)労使協定の効力
①協定締結後、労働者側の協定当事者が法定の要件を満たさなくなった場合
「労働者の過半数を代表する者」という要件は、労使協定の「成立要件」にと どまり、「存続要件」ではない
②協定の免罰効果等
労働基準法上の労使協定の効力は、一般的には、その協定の定めるところ によって労働させても労働基準法に違反しないという免罰効果をもつもの であり、労働者の民事上の義務は当該協定から直接生じるものではなく、 労働協約、就業規則等の根拠が必要である
「年次有給休暇の計画的付与」に係る労使協定は、これを締結することによ り、法第39条第5項労働者の時季指定権と使用者の時季変更権の効力は消 滅する(別途、労働協約、就業規則等に特に規定しなくてもそれらの権利は 消滅する)
「任意貯蓄」に係る労使協定は、その罰則がないため免罰効果はない
③効力が及ぶ人的適用範囲
労使協定に反対している労働者にも及ぶ
5)有効期間
その定めが必要となるもの
①36協定(時間外及び休日の労働) ②1箇月単位の変形労働時間制 ③1年単位の変形労働時間制 ④事業場外労働又は専門業務型裁量労働のみなし労働時間制
*労働組合法第15条により、労働協約に有効期間を定める場合は3年まで また、有効期間を定めない場合は、当事者の一方が署名又は記名捺印し た文書で、解約しようとする少なくとも90日前に相手方に通告すれば解 約することができる
6)労使協定の届出
*1 届出は必要であるが、届出をしないことによる罰則のないもの
・任意貯蓄
*2 届出をしなくても免罰効果が発生するもの
・1箇月単位の変形労働時間制 ・1年単位の変形労働時間制 ・1週間単位の非定型的変形労働時間制 ・事業場外労働のみなし労働時間制 ・専門業務型裁量労働制
[例]1年単位の変形労働時間制の労使協定は、所轄労働基準監 督署長に届け出なかった場合は、30万円以下の罰金の対 象となるが、届け出ていなくても免罰効果は発生する
*3 届出の必要があり、届出をしないと免罰効果が発生しないもの
・時間外及び休日の労働(36協定)
[例]36協定(時間外及び休日の労働)は、所轄労働基準局監督署長に届 け出た初めて免罰効果が発生する したがって、届け出ずに時間外労働をさせた場合は、法第32条違 反として6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる しかし、届け出なかったことに対する罰則はない
7)労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議による適用の特例 (所定の要件を満たす衛生委員会又は安全衛生委員会を含む)
委員会の委員の5分4以上の多数による決議が行われたときは、当該決議は下記の労使 協定等と同様の効果を有する
①1箇月単位の変形労働時間制 ②フレックスタイム制 ③1年単位の変形労働時間制 ④1週間単位の非定型的変形労働時間制 ⑤休憩の一斉付与の例外 ⑥時間外及び休日の労働(36協定) ⑦代替休暇 ⑧事業場外労働又は専門業務型裁量労働制のみなし労働時間制 ⑨時間単位年休 ⑩年次有給休暇の計画的付与 ⑪年次有給休暇中の賃金 |
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労使協定の適用範囲
・届出が必要なものや有効期間の定めが必要なものなどその種類によって異なります。また、
年少者や妊産婦への適用に関しても異なります。
労使協定の種類
労使協定の種類 | 届出 | 有効期間の定め(*1) | 年少者に対する適用 | 妊産婦が請求した場合の適用(*3) | 根拠条文 |
貯蓄金の管理 | 要 | 不要 | ー | ー | 労基法第18条② |
1箇月単位の変形労働時間制 | 要 | 要 | 適用不可(ただし1日8時間・1週48時間を超えない範囲内では適用可) | 適用不可 | 労基法第32条の2 |
1年単位の変形労働時間制 | 要 | 要 | 適用不可(ただし1日8時間・1週48時間を超えない範囲内では適用可) | 適用不可 | 労基法第32条の4 |
1週間単位の非定型的変形労働時間制 | 要 | 要 | 適用不可 | 適用不可 | 労基法第32条の5 |
フレックスタイム制 |
不要 | 不要 | 適用不可 | 適用可 | 労基法第32条の3 |
時間外労働・休日労働 |
要 | 要 | 適用不可(1週のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮すれば、他の日の労働時間を10時間まで延長可) | 適用不可 | 労基法第36条 |
事業場外労働 |
要*2 | 要 | 適用可(法定労働時間を超える場合は適用不可) | 適用可(法定労働時間を超える場合は適用不可) | 労基法第38条の2② |
専門業務型裁量労働制 |
要 | 要 | 適用可(法定労働時間を超える場合は適用不可) | 適用可(法定労働時間を超える場合は適用不可) | 労基法第38条の3 |
賃金の一部控除 |
不要 | 不要 | ー | ー | 労基法第24条①但書き |
一斉休憩の例外 |
不要 | 不要 | ー | ー | 労基法第34条② |
年次有給休暇の計画的付与 |
不要 | 不要 | ー | ー | 労基法第39条⑥ |
時間単位年休 |
不要 | 不要 | ー | ー | 労基法第39条④ |
年次有給休暇取得者に対する標準報酬日額 |
不要 | 不要 | ー | ー | 労基法第39条③ |
代替休暇 |
不要 | 不要 | ー | ー | 労基法第37条③ |
*1有効期間に関する規定はないが、「変形労働時間制に関する労使協定は、不適切な変形制が長期間運用されることを防ぐため、その有効期間を1年程度することが望ましい」と、されている。(H6.3.11基発132)また、「専門業務型裁量労働制」については、3年以内が望ましいという基準があります。
*2労使協定で定めたみなし労働時間が、法定労働時間を超えている場合のみ届出を必要とします。
*3監督または管理の地位にある妊産婦については、時間外労働および休日労働をさせることや変形労働時間制を適用することは可能です。