■労働契約の締結
1.労働基準法違反の契約(法13条)
労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分につ
いては無効とする
この場合において、無効となった部分は、労働基準法で定める基準による
1)趣旨
最低労働条件の確保を目的として基準に達しない労働条件を無効とし(強行
的効力)、更に無効とした労働条件を当該法の基準で補充することを定める
こと(直律的効力)
2)「労働条件」とは
労働者の職場における一切の待遇をいう
3)その部分については無効とする
労働契約中法定基準に達しない労働条件を定めている部分のみを無効とする
判例:
・採用内定と労働契約の成立
採用内定を通知した場合、誓約書記載の採用内定取消し事由に基づく解約権を
留保した労働契約が成立したものと認める
・採用内定の取消し
採用内定の取消事由は、社会的通念上相当として是認できるものに限る
・有期契約と試用期間
雇用契約に期間を設けた場合おいて、その設けた趣旨・目的が労働者の適正を
評価・判断するためのものであるときは、試用期間と解するのが相当である
2.契約期間等(法14条)
(1)契約期間(法14条1項)
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業完了に必要な期間を定
めるものの他は、3年(次の①、②のいずれかに該当する労働契約にあっては、
5年)を超える期間を締結してやならない
①専門的な知識、技術又は経験(以下①において「専門的知識等」という)であっ
て高度なものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有
する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務につくものに限る)と
の間に締結される労働契約
②満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(①に掲げる労働契約を除
く)
1)趣旨
長期労働契約による人身拘束の弊害を排除するため
2)一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの
有期事業であることが客観的に明らかな場合であり、その事業の終期までの
期間を定める契約であること
3)専門的な知識、技術又は経験であって高度のものとして厚生労働大臣が定め
る基準に該当する専門的知識等
4)上限5年の労働契約
高度の専門的知識等を必要とする業務に就く場合に限る
(2)有期労働契約の暫定措置(法附則137条)
期間を定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除
き、その期間が1年を超えるものに限る)を締結した労働者(第14条第1項各号
に規定する労働契約が5年である労働者を除く)は、当分の間、民法第628条
の規定にかかわらず、当該労働契約の機関の初日から1年を経過した日以後に
おいては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができ
る
1)有期労働契約の暫定措置
1年を超える期間の有期労働契約を締結した労働者にあって、法第14条第1
項各号に規定する労働者以外の者は、1年を経過した以後においては、いつ
でも退職することができる
2)民法第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約を解除することが
できる
その事由が、一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して
損害賠償の責任を負う
(3)労働契約期間満了に係る通知等に関する基準(法14条2項、3項)
厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期
間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止
するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項
その他必要な事項についての基準を定めることができる
行政官庁は、上記の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用
者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる
1)趣旨
トラブルを防止し、その迅速な解決が図られるようにすることが必要である
2)有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準
①雇止めの予告
期間の定めのある労働契約(3回以上更新し、又は1年を超えて継続勤務し
ている者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨を明示さ
れているものを除く)を更新しない場合には、少なくとも期間満了日の30
日前までに予告しなければならない
②雇止めの理由の明示
・①の雇止めを予告する場合において、労働者が証明書を請求したとき
は、遅滞なく交付しなければならない
・期間の定めのある労働契約(3回以上更新し、又は1年を超えて継続勤務
している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨を明
示されているものを除く)を更新されなかった場合において、労働者が
証明書を請求したときは、遅滞なく交付しなければならない
③契約期間についての配慮
使用者は、期間の定めのある労働契約(1回以上更新し、又は1年を超えて
継続勤務している者に限る)を更新しようとする場合において、当該規約
の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよ
う努めなければならない
3.労働条件の明示(法15条)
(1)絶対的及び相対的明示事項(法15条1項、則5条3項)
使用者、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働
条件を明示しなければならない
この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定
める事項については、厚生労働省令で定める方法(書面の交付)により明示しな
ければならない
1)明示すべき時期
労働契約の締結の際*であり、契約満了後、労働契約を更新する場合も含む
*職業安定法においては募集時点における労働条件の明示義務がある
2)絶対的明示事項及び相対的明示事項
法第15条の労働条件の明示 | 就業規則の必要記載事項 | ||
絶対的明示事項 |
①労働契約期間に関する事項 ②期間の定めのある労働契約 を更新する場合に関する 事項* ③就業の場所及び従事すべき 業務に関する事項 ④始業及び終業の時刻、所定 労働時間を超える労働の有無、 休憩時間、休日、休暇並びに 労働者を2組以上に分けて就業 させる場合における就業時転 換に関する事項 ⑤賃金(退職手当及び⑧に規定 する賃金を除き、以下⑤にお いても同じ)の決定、計算及び 支払方法、賃金の締め切り及 び支払の時期並びに昇給に関 する事項 ⑥退職に関する事項(解雇の事 由を含む) |
絶対的必要記載事項 |
①始業及び終業の時刻、休憩 時間、休日、休暇並びに労働 者を2組以上に分けて就業さ せる場合における就業時転換 に関する事項 ②賃金(臨時の賃金を除き、以 下②においても同じ)の決定、 計算及び支払方法、賃金の締め 切り及び支払の時期並びに昇給 に関する事項 ③退職に関する事項(解雇の事 由を含む)
|
相対的明示事項 |
⑦退職手当の定めが適用され る労働者の範囲、退職手当の 決定、計算及び支払の方法並 びに退職手当の支払の時期に 関する事項 ⑧臨時に支払われる賃金(退職 手当を除く)、賞与等並びに最低賃金額に関する事項 ⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する 事項 ⑩安全及び衛生に関する事項 ⑪職業訓練に関する事項 ⑫災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 ⑬表彰及び制裁に関する事項 ⑭休職に関する事項
|
相対的必要記載事項 |
④退職手当の定めが適用される 労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに 退職手当の支払の時期に関する事項 ⑤臨時の賃金等(退職手当を除く)、及び最低賃金額に関する 事項 ⑥労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する 事項 ⑦安全及び衛生に関する事項 ⑧職業訓練に関する事項 ⑨災害補償及び業務外の傷病 扶助に関する事項 ⑩表彰及び制裁の種類並びに 程度に関する事項 ⑪上記の①から⑩のほか、 当該事業場の労働者全てに適用される定めに関する事項 |
*労働契約を更新する場合がある締結に限り明示しなければならない
参考:
労働条件の明示事項②
平成25年4月1日より明示事項とされた
労働条件の明示事項④
適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示しなければならない
内容が膨大になる場合においては、就業規則上に示すことで足りる
労働条件の明示事項⑥
退職の自由及び手続、解雇の自由等を明示しなければならない
内容が膨大になる場合においては、就業規則上に示すことで足りる
派遣労働者に対する労働条件の明示
派遣元の使用者は、特例により義務を負わない労働時間、休憩、休日等を含
めて、労働条件を明示する必要がある
注意:日々雇入れられる者及び2箇月以内の期間を定めて使用される者に対
しても、労働契約締結の際に明示する必要がある
3)明示の方法
絶対的明示事項のうち、⑤の「昇給に関する事項」以外の事項については、書
面で交付による明示が必要である
書面により明示すべき賃金に関する事項
4.労働者の労働契約解除権及び帰郷旅費(法15条2項、3項)
法第15条第1項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合におい
ては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる
上記の場合、就業のために住所を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内
に帰郷する場合においては、必要な旅費を負担なければならない
1)明示された労働条件が事実と相違する場合
当該労働者自身に関する労働条件に限定される
2)必要な旅費
労働者本人のみならず、就業のために移転した家族の旅費も含む
3)帰郷
本人の就業前の住所、また父母親族の元に帰る場合も含む
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