■労働契約の終了
1.解雇
労働契約を将来に向かって解約する使用者側の一方的意思表示である
したがって、労働関係の終了事由でも、労使間の合意による解約、労働契約期間
満了、任意退職等は、原則として、解雇ではない
1)解雇の制限
解 雇 使用者の一方的意思表示による労働契約の解除 |
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↓ 制 限 |
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↓ 解 雇 制 限:法19条 |
↓ 解雇予告(手当の支払い):法20条 |
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・打切補償支払 ・天災事変等事業継続不可能+認定
→解雇制限解除 |
・転変事変等継続不可能+認定 ・労働者の責に帰すべき事由+認定
→解雇予告(手当の支払)不要
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注意:臨時的・短期的労働者については適用除外:法21条
2)解雇権濫用の法理
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はそ
の権利を濫用したものとして、無効とする
参考:解雇権濫用法理は、平成15年労働基準法第18条の2として明文化され、
平成19年労働契約法の制定に伴って同16条に移行された
3)労働者派遣契約の解除
労働基準法は適用されない
事業の継続が不可能であるかどうかの判断は派遣元の事業について行われる
4)定年制と解雇予告
定年退職の場合も、就業規則に、契約が自動的に終了するものと解されない規
約があると、解雇の問題が生ずる可能性がある
定年退職制 | 定年に達したことによって自動的に退職する制度 | 解雇の規定適用なし |
定年解雇制 | 定年に達したことを理由として解雇する制度 | 解雇の規定適用あり |
2.解雇制限(法19条)
(1)解雇制限期間(法19条1項)
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期
間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期
間及び損後30日間は、解雇してはならない(産前は、出産予定日以前の6週間、
産後は、実際の出産日の翌日から8週間)
注意:実際の出産が出産予定日より遅れて休業している期間は、産前休業期間
に含まれる
産後6週間経過して就労を開始した場合は、その後30日間が解雇制限期
間となる
(2)解雇制限の解除(法19条第1項ただし書、2項、則6条)
次の場合には、法第19条第1項本文の解雇制限の規定は適用されない
・使用者が、法第81条の規定によって打切補償を支払う場合
・天変事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場
合(この場合は、その事由について所轄労働基準監督署長の認定を受けなけ
ればならない)
注意:認定基準
1)「やむを得ない事由」とは
不可抗力に基づきかつ突発的な事由である
①事業場が火災により焼失した場合(事業者の故意または重大な過失に基づ
く場合を除く)
②震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼とにより事業の継続が不可能とな
った場合
2)「事業の継続が不可能となる」とは、事業の全部又は大部分の継続が不可能
となった場合をいう
3.解雇予告(法20条)
(1)解雇の予告及び解雇予告手当の支払(法20条第1項、2項)
・使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前に
その予告をしなければならない
30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支
払わなければならない
・上記の予告日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その
日数を短縮することができる
1)解雇の予告
民法上は2週間で足りるが、再就職活動を考慮して、法第20条で使用者に
30日前に解雇予告をすべきことを義務付けている
参考:期間の定めのない雇用の解約の申入れ
①各当事者はいつでも解約の申出をすることができる
この場合、雇用関係は解約の申入れの日から2週間を経過すること
によって終了する
②報酬が期間によって定められている場合、解約の申入れは次期以後
に関してすることができる
この場合、解約の申入れは当期の前半にしなければならない
③6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合は、3箇月前に解約の
申入れをしなければならない
2)解雇予告期間
解雇予告がされた日は算入されず、予告日と効力発生日との間に、中30日
間の期間を置かなければならない
休日又は休業日があったとしても延長されない
3)解雇予告の取消し
一般的には取り消すことはできないが、当該労働者が自由な判断によって同
意した場合は、取り消すことができる
4)解雇予告と解雇制限期間の関係
業務上の傷病のために休業した場合は、法第19条の解雇制限の適用がある
療養のための休業期間及びその後30日間経過後、解雇制限期間が終了する
時、改めて解雇予告をする必要はない(休業期間が長期にわたる場合を除く)
5)予告期間到来後の解雇
予告期間経過後、引き続き使用する場合は、その解雇予告は無効となる
予告期間到来後解雇する場合は、改めて解雇予告をしなければならない
6)予告期間中の労働関係
休業を命じ、その期間中平均賃金の60%の休業手当を支払えば、予告期間
は成立する
7)解雇予告手当
解雇の申渡しと同時に支払うものとされているので、一般的に時効の問題は
生じない
法第11条の賃金の中には含まれない
8)最低年齢に満たない労働者の解雇
法第56条に基づいて児童を解雇する場合は、法第20条は適用される
その違法状態の継続は認められないので、予告手当を支払い、即時解雇すべ
きである
9)予告期間及び予告手当の支払いなき解雇
この場合の即時解雇は無効である
もし使用者の解雇の意思があり、かつ即時解雇に固執しない場合、30日経
過後その予告は効力をもつ
判例:使用者が予告期間及び予告手当の支払いなしに即時解雇した場合、そ
れは効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執しない限り、30日
の期間を経過するか、又は予告手当の支払いをした時、その解雇の効
力は生ずると解する(相対的無効説)
参考①解雇予告の方法
口頭で行っても有効であるが、書面を交付することが望ましい
参考②組合専従者の解雇予告手当
会社に在籍中の場合は、法第20条は適用される
参考③予告手当の概算払い
整理する人数が多くて平均賃金を正確に計算するのが難しい場合は概
算払して、その後速やかに不足額を提供することができる
(2)即時解雇が可能な場合(法20条第1項ただし書、3項、則7条)
・次の場合には、法第20条第1項本文[解雇予告及び解雇予告手当の支払]の規
定は適用されない
①天変事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場
合
②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
・上記の場合においては、その事由について所轄労働基準監督署長の認定を受
けなければならない
参考:「労働者の責に帰すべき事由」
・極めて軽微なものを除き、盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為
・賭博等職場の規律を乱し、悪影響を及ぼす場合
・重大な経歴の詐称
・他事業場への転職
・2週間以上の正当案理由なき無断欠勤
・出勤不良が改まらない場合
参考:認定の性格
即時解雇の意思表示をした後、解雇予告除外認定を得た場合はその解雇
の効力は使用者が即時解雇の意思表示をした日に発生する
(3)解雇予告の適用除外(法21条)
第20条の解雇予告の規定は、次表左欄の労働者については適用されない
ただし、当該労働者が次表右欄に該当した場合には適用される
解雇予告規定の適用除外該当者 | 左欄の者に解雇予告が必要となる場合 |
日々雇入れられる者 |
1箇月を超えて引き続き使用されるに 至った場合 |
2箇月以内の期間を定めて 使用される者 |
所定の期間を超えて引き続き使用され るに至った場合 |
季節的業務に4箇月以内の 期間を定めて使用される者 |
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試の使用期間中の者 |
14日を超えて引き続き使用されるに 至った場合 |
1)趣旨
臨時的な性質の就労と考えているためあえて予告させる必要はない
乱用を防止するため上表右欄で法第20条の適用がある
2)試の試用期間中の解雇
期間中でも14日を超えると法第20条が適用される
3)反復更新された臨時工の解雇予告
契約が反復更新され、実質的に期間の定めのない労働関係と認められる場合
法第20条が適用される
4)短期契約の継続的な更新
実質において期間の定めのない契約と同一に取り扱うべきものであるから法
第21条第2項には該当しない
参考
●2箇月以内の期間を定めて使用される者
日々雇い入れられる者を幾日か経過した後2箇月の期限で雇用した場合、
その契約は反復継続されたものではないので、その期間が法第21条第2項
に該当する限り解雇の予告の問題には該当しない
●契約の更新と試の試用期間
契約更新後、2週間以内の使用期間中に解雇しようとするときは、契約更
新に伴い、明らかに作業内容が切り替えられる等客観的に試の使用期間と
認められる場合を除いて、解雇予告を必要とする
4.退職時等の証明(法22条)
・労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地
位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇であった場合にあつては、その理由
を含む)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを
交付しなければならない
・労働者が、第20条第1項の解雇予告がされた日から退職の日までの間におい
て、当該解雇理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞
なくこれを交付しなければならない
ただし、解雇予告された日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した
場合においては、使用者は、当該退職に日以後、これを交付することを必要と
しない
・上記の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない
・使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的とし
て、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信を
し、又は上記の証明書に秘密の記号を記入してはならない
1)趣旨
紛争を防止し、再就職活動に資するため、そしていわゆるブラックリストを
禁止したものである
2)法定記載事項
①使用期間、②業務の種類、③地位、④賃金、⑤退職の事由(解雇の場合は、
その理由を含む)とされているが、たとえこれらの事項であっても、労働者の
請求しない事項については記入してはならない
3)労使間で見解の相違がある場合
使用者が自らの見解を退職時の証明書に記載し、遅滞なく交付すれば、法第
22条第1項違反とはならない
しかし、それが虚偽であった場合は同項の義務を果たしていないと解される
4)証明書の交付義務
解雇予告期間中に証明書を請求した場合、その日以後に当該解雇以外の事由
で退職した場合を除いて、使用者は予告期間が経過した場合であっても、証
明書の交付の義務がある
法第22条第2項は、解雇予告期間中のケースに適用されるもので、解雇予告
の義務がない即時解雇の場合には、適用されない
この場合、即時解雇後当該労働者が証明書を請求した場合はその交付の義務
がある
参考:
●解雇の理由
具体的に示す必要がある
例えば、就業規則の条項に該当する場合はその事実関係を証明書に記入し
なければならない
●雇用保険の離職票との関係
離職票を、退職時の証明書とすることはできない
5)退職時の証明の記載事項
「国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信」は、制限列挙
であり、例示ではない
6)秘密の記号
その事項については限定されていない
あらかじめ第三者と謀り、かつ労働者の就業を妨げることを目的する場合
は、いかなる秘密の記号も本条に抵触する
5.金品の返還(法23条)
・使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合
においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の
如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない
・上記の賃金又は金品に関して争いがある場合においては、使用者は、意義の無
い部分を、7日以内に支払い、又は返還しなければならない
1)権利者
労働者が退職した場合は、その労働者本人
労働者が死亡した場合は、その労働者の遺産相続人であり、一般債権者は含
まない
2)退職手当の支払時期
あらかじめ就業規則等で定められた支払時期に払えば足りるものである
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