■給付通則
1.通則
(1)保険給付の方法
①保険給付金の支給は、その都度、行わなければならない
②傷病手当金及び出産手当金の支給は、前項の規定に係らず、毎月一定の期
日に行うことができる
(2)受給権の保護
①譲渡等の禁止
保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえること
はできない
*健康保険法では、未支給給付規定が設けられていないので、未支給給付が
ある場合は、死亡した受給権者の相続人が請求権を承継し、その相続人に
よって受領されるという取扱いになる
②公課の禁止
租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課す
ることができない(健康保険の保険給付で公課を課すことが禁止されてい
ないものはない)
2.併給調整
(1)労災保険法等による給付との調整
被保険者の療養給付等(健康保険法に基づくすべての給付)について、労災保
険、国家公務員災害補償法又は地方公務員災害補償法等により、それらに相
当する給付を受けることができると場合には、行わない
(2)介護保険法による給付との調整
被保険者に係る療養の給付又は入院食事療養費、入院時生活療養費、保険外
併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療
養費の支給は、同一の疾病又は負傷について、介護保険の規定によりこれら
に相当する給付を受けることができる場合には、行わない(介護保険優先)
*介護保険における訪問看護ステーションからの訪問看護を受けている者の
急性憎悪等により、特別指示所に係る指定訪問看護を受ける場合の給付は
医療保険から行われる
(3)公費負担医療との調整
被保険者に係る療養の給付等の支給は、同一の疾病又は負傷について、国又
は地方公共団体の負担で療養又は療養費の支給を受けたときは、その限度に
おいて行わない
結核、精神病などは特別法により公費負担が導入されている
ただし、一般的には、健康保険の給付が優先するので、公費負担は自己負担
分について行われる
①結核患者が通院医療を受けるとき
原則として、都道府県が95%負担することになっているが、健康保険等
から給付が受けられる場合には、費用の70%(原則)が健康保険等から給
付され、25%(原則)が公費負担され、残り5%が自己負担となる
②精神障害の通院医療を受けるとき
90%が公費負担とされることになっているが、健康保険等から給付が受
けられる場合には、70%が健康保険等から給付され、20%が公費負担さ
れ、残りの10%が自己負担となる
③勧告入院患者等に対して入院医療を行うとき
全額公費負担とされることになっているが、健康保険等から給付を受けら
れる場合には、70%が健康保険等から給付され、残りの30%は公費負担
される
④生活保護法による医療扶助等
70%が健康保険等から給付され、残りの30%が公費負担となる
*災害救助法の規定により、被救助者の医療について公費負担が行われたと
きは、その限度において健康保険の保険給付は行われない(この場合は、
公費負担が優先する)
(4)少年院等における公費治療との調整
①公費により治療等が行われるので、健康保険の疾病、負傷及び出産に関す
る保険給付は原則として行われない
②被保険者が少年院等に収容された場合でも、被扶養者には保険給付が行わ
れる
③被扶養者本人が少年院等に収容された場合には、被扶養者に係る疾病、負
傷及び出産に関する保険給付は行われない
*未決勾留者に対する傷病手当金、出産手当金の給付は制限が緩和され行わ
れることとなった
*被保険者が少年院に収容等された場合であっても、死亡に関する保険給付
は行われる
3.給付制限
(1)絶対的給付制限
自己の故意の犯罪により又は故意に給付事由を生じさせたときは、保険給付
は行わない
①埋葬料(費)の支給について
自殺は故意に基づく事故だが、支給しても差し支えない
②道路交通法違反による事故による死亡
本条を適用しない取扱いとする
③自殺未遂について
精神疾患等に起因する自殺未遂については、保険給付の対象とする
④被保険者である配偶者から暴力を受けた場合
保険給付は行われないとされているが、婦人相談所が発行する証明書を添
付して申し出ることのより、被扶養者から外れることができる扱いになっ
ている(被扶養者から外れるまでの間に緊急に受診した場合には、保険診
療を可能とする取り扱いになっている)
(2)相対的給付制限
①全部又は一部制限
1)闘争、泥酔又は著しい不行跡によって給付事由を生じさせたときは、全
部又は一部を行わないことができる
2)正当な理由なしに文書その他の物件の提出若しくは提示命令に従わず、
又は質問若しくは診断に対し答弁若しくは受診を拒んだときは、全部又
は一部を行わないことができる
②一部制限
正当な理由なしに療養に関する指示に従わないときは、一部を行わないこ
とができる
(3)不正受給による給付制限
偽りその他不正な行為により保険給付を受け又は受けようとした者対して、
6月以内の期間を定め、傷病手当又は出産手当の全部又は一部を支給しな旨
を決定することができる
ただし、偽りその不正行為があった日から1年を経過したときはこの限りで
はない
4.不正利得の徴収
(1)不正受給者からの徴収
偽りその他不正行為によって保険給付を受けた者がるときは、保険者はその
給付の価額の全部又は一部を徴収することができる
(2)連帯納付命令
前項の場合において、事業主が虚偽の報告を若しくは証明をし、又は保険医
若しくは主治医が診断書に虚偽に記載をしたため保険給付が行われたもので
あるときは、事業主、保険医又は主治医に対し連帯して徴収金を納付すべき
ことを命ずることができる
(3)不正受領診療費等の返還等
保険者は、保険医療機関若しくは保険薬局又は指定訪問看護事業者が偽りそ
の不正行為によって療養の給付等に関する費用の支払を受けたときは、当該
保険医療機関等に対しその支払った額につき返還させるほか、その返還させ
る額に100分の40を乗じて得た額を支払わせることができる
5.損害賠償との調整
(1)第三者の行為による被害の届出
①保険者は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において保険給付
を行ったときは、その給付額の限度において保険給付を受ける権利を有す
る者が第三者に対して有る損害賠償の請求権を取得する
*第三者にの行為によって生じたものであるときは、被保険者は、遅滞な
く、必要事項を記載した届出書を保険者に提出しなければならない
(2)求償
保険者が、第三者に対して損害賠償を請求すること
(3)免責
被保険者等が第三者から損害賠償を受けたときは、保険者はその価額の限度
において保険給付をしなことができる
(4)示談の扱い
①示談と同時に損害賠償を全額受けたり、全額免除した場合は、示談後の保
険給付は行われない
②治った後で支払とする示談の場合は、保険給付に要した価額に相当する全
ての損害賠償請求権を保険者が代理取得する
(5)政府の保証事業との関係
政府の保証事業に対して求償することはできない
6.健康保険組合の付加給付
保険者が健康保険組合である場合においては、健康保険法で定める保険給付に
併せて、規約で定めるところにより、保険給付としてその他の給付を行うこと
ができる
*過去3年間において、給付費臨時補助金の交付を受けた組合については実
施することはできない
■ご感想、ご意見、ご質問、ご依頼、ご注文等は、「コンタクト」フォームよりお願い
します。※ここをクリックすると「コンタクト」フォームへ移動します。